峠道にはさまざまありますが、中に「2つの地域をつなぐもの」があり、独特のおもしろさがあります。たとえば、群馬と長野の県境にある渋峠がそうですし、東海から近畿への入口になっている加太越もそういったタイプの峠に分類できるでしょう。
今回は長野の大盆地「伊那谷」と旧中山道が通っていた「南木曽」、景色も雰囲気も異なる2つの地域をつなぐ峠道を走るコースを紹介します。
コースの概要
- 難易度:★★★☆☆(ややしんどい)
- 距離:★☆☆☆☆(短い)
- 斜度:★★★☆☆(まぁ上る)
- 路面:★★★★★(極めて良好)
- 文明:★★★☆☆(補給・リタイアが難しい区間あり)
- 自然:★★★☆☆(感じられる)
- 文化:★★★★★(満載)
- 属性:街道/ヒルクライム/廃村/宿場町
- 長野県飯田市にある「大平街道」を経由して3つの峠を越えるとともに、3つの宿場町に立ち寄ります。アクセスに難がありますが、交通量の多い国道をある程度回避しつつ、ヒルクライムと有名な宿場町を楽しめます。
- 起点はJR飯田線 飯田駅(GPSデータは飯田市内のホテルが起点)です。
- 終点はJR東海 中津川駅です。
鉄道と国道によって歴史的使命を終えた「大平街道」
起点は飯田市内(JR飯田線 飯田駅)。駅からすぐにアクセスできる、長野県道8号──大平街道へ。
地味ながら走りやすい峠道「飯田峠」
大平街道に入ると、すぐに上りが始まります。伊那谷の山々を眺めながら上っていきます。
風雨にさらされていい感じの石碑や、半分苔むした灯籠などが出現。
路線名は飯田南木曽線。地名のほうは…令和のご時世では絶対つけられない感じのやつ。
切り通しの上には十二面観音。この後も、道ばたには観音像がいくつもありました。街道を行く人々を見守っているのでしょう。
でも悲しいことに、この道を行く人は今ではほとんどありません。大平街道は江戸時代中期に拓かれたのですが、伊那電鉄の開業や清内路峠を通る国道の開通で衰退してしまいました。たまに観光目的のクルマやバイクが通る程度です。
大平街道は南木曽の終点まで約32kmと長大。最大標高は約1370m、獲得票高は850m弱。上り区間の勾配はならすと5%弱。道は常にうねっていて、それを黙々、淡々と上っていきます。
ときおり「第N号カーブ」という看板が出現しますが、どう考えても桁が1つちがいます(どういうルールでカウントしてるんでしょう?)。
とはいえ、こういった曲線半径が大きめのカーブが多く、個人的には「今、長野の山を走っている」と実感できて良かったです(長野には大がかりな山や峠が多く、山道であっても線形には余裕がある印象)。
舗装は非常に綺麗です。ガレている箇所は南木曽方面への下り含めてほとんどありませんでした。
こういった手書き看板があちこちに設置されていたりもして、交通量のわりに管理は行き届いています。なお、この看板は旧道のありかを「こっち」と示していますが、その先にはただの雑木林。テイストのわりにハードコアです。
展望が開けるところはほぼなし、かなり地味です。ただ、1カ所だけとんでもない景色が見られる場所があり(後述)、そこまで行く価値はあります。
大平街道は2つの峠で構成されていて、これまで上ってきたのがその1つめ、「飯田峠」です。第1の目的地があるのはこの先です。
宿場町の標本「大平宿」
飯田峠の先にあるのは「大平宿」。かつて大平街道を人々が行き交ったころの名残、と言える場所です。
大平宿には江戸末期から昭和初期までの建物がずらりと建ち並んでいます。
そんなの、木曽方面に数ある宿場町に行けば見れるじゃん、と思うかもしれませんが、そちらとは雰囲気がかなりちがいます。建築様式が異なる、というのがまずありますが、人がまばら、というのが大きい。
大平宿は廃村になっています。歴史的な資料・体験施設として維持・利用されてはいますが、訪れる人は多くなく、何より定住者がいない。木曽の宿場町でも歴史的な建造物が保存されていますが、人が住み、観光客も訪れるので現代的なアップデートが施されています。
水も電気も通っていて、建物も古いものの、よく手入れされています。ただ、それ以上がない。カフェも自販機もない。本当に維持・保存されているだけ。大平宿は“宿場町の標本”といった風情です。時の流れを食い止めているだけ、というか。別段それが悪いとかそういう話ではなく、特異さを感じられる宿場町だ、ということです。
下り区間で南木曽岳を間近に望める「木曽峠」
大平宿から先はまた上りになります。それまでと雰囲気がかなり変わり、大きな岩が露出していたり、崩落でガードレールが宙ぶらりんになっていたり。
約3.5kmで200mほど上る木曽峠。平均勾配は約5.5%で、飯田峠までと同様、キツい上りではありません。
ピークのコンクリートトンネルを抜ければ、その先は南木曽です。
下っていく途中に展望台があり、そこからの南木曽岳が間近に。かなり強烈な景色です。
下りきったところで国道256号に合流します。
妻籠宿と馬篭宿──現代の“生きた宿場町”を見る
この後は、輪行できる中津川駅まで行くついでに2つの宿場町に立ち寄ります。間に峠をひとつ挟みます。
古い建物が保存されつつも観光客で賑わう「妻籠宿」
妻籠宿はこんな感じ。江戸時代の建物が残っており、メインストリートからのぞけちゃったりも。
その一方で、観光客向けのカフェなどもあり。自分は「好日珈琲」でお昼にしました。ほぼピザなガレットが長い上りのあとだとうまいことうまいこと。
馬籠峠
妻籠宿を出て、馬籠峠を登ります。途中で旧中山道に入れたりも。妻籠からピークまでは距離が約4.6km、獲得票高が約300m、平均勾配は6.5%。それなり、な峠です。長野と岐阜の県境があり、長野にはここでさようなら。
古くて新しい宿場町「馬篭宿」
建物は擬古的な新しいものばかり。雰囲気は抜群にいいですが、完全に観光地で、人も多かったです。
展望台からは恵那山が丸見え。
自分は、都市の喧噪に辟易する→自転車で僻地に逃げ込む、が癖になっています。今回のコースもそんなムードの中で走ったのですが…歴史的使命を終えた大平街道と大平宿のあとに、活気ある妻籠宿や馬篭宿に立ち寄ったらなんだかほっとしてしまいました。
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