この記事は旧ブログからの転載です。
過去イチ過酷で凄絶な景色が見られたライドでした。
RoadQuestというヒルクライムクチコミサイト(滅亡済)をきっかけに知り合った、ハードコアサイクリストのみなさん(イナさん @ina_419, PieTakoさん @PieTako, kmさん @allblacksNZ2015, おおぜきネコさん @ozeki3333 )と会津高原を越えて奥只見に紅葉を見に行ってきました。
コースはこんな感じ。走行距離137km・獲得票高2,148mですが、日の短い11月上旬に補給場所が限定される南東北〜中越の山奥を1日で走破する形。難易度は高めだと思います。参加者は全員「慣れた人たち」ですが、それでも激しい展開に。
最高のライドになる予感しかなかった
東武東上線/会津野岩鉄道 特急リバティ号始発に飛び乗り、会津高原尾瀬口駅へ。
車窓からでも紅葉で美しく色づいた景色が見放題。
駅前の温泉に入って帰る、でも満足できるレベルでしょう。
9時21分に会津高原尾瀬口に到着。
駅前の紅葉がもうすごい。
出発は9時50分頃。
沿道も紅葉最盛期です。
全面が色づいており、緑のほうがまばらというのに驚かされます。
最高のタイミングで訪れたのはまちがいありません。
空には雲がありましたが、おかげで実際の色味にかなり近い写真が撮れます。
落葉の中を行きます。雰囲気も抜群によかった。
以降、それが本当にずっと続きます。
紅葉の中に突っ込んでいくような感じ。
舘岩川に沿うように進む国道352号(R352)を突き進み、11時頃に舘岩集落を通過。
舘岩川は伊南川(いながわ)と合流し、R352は伊南川に沿って南へ。
11時50分頃に屏風岩に到着。
まさかのパーティ崩壊
12時9分に檜枝岐(ひのえまた)に到着。少し調子が悪いという人がいるので、村役場付近にあるお店で休憩がてら昼食に。
今日が年内最終営業日という「山人屋(やもうどや)」というお店をチョイス。
田舎定食(1,000円)が物珍しいので食べてみました。ご飯と汁にはこれでもかというくらいきのこ。おかずの岩魚の身をほぐしたものと卵のヅケ(要はいくら)は新鮮&塩味がよく効いていていいアクセント。黒っぽいのは醤油をかけてと言われた何か(きくらげ?)。おいしいだけでなく、野趣があるのも良い。
13時10分頃にライドを再開、先頭を引いていたのですが、中切れしてしまうのでペースを落とす。
13時30分には尾瀬国立公園に突入。
13時30分に御池へのヒルクライムがスタート、今回のライドで最大の上りです。
キツめの上りが続きますが、わりとぐいぐい上っていきました。
遅れる人も出ますが、撮影を挟むなどして控えめなペースをキープ。紅葉はここも最盛期です。
14時20分に御池ロッジに到着しますが、思いのほかこたえ、続行は厳しいという人が2人(この2人あれこれあって久方ぶりのライド)。正確なところはまだ聞けていませんが、比較的ハイペースでしたし、マイペースでいけないグループライドなのも影響した気がします。正直、相当体力があるという印象の2人だったので、面食らいました。
結局、2人には檜枝岐へ戻りシャトルバスを使って帰京してもらい、ほかの3人は予定通り進むことに。
パーティを2つに割る判断をした理由は2つあります。
全員で帰京できるか不安があったというのが1つめ、終電の時間的に帰京する人は次のシャトルバスに乗らねばなりませんでしたが、5人全員の自転車を積めない可能性がリアルにありそうでした。シャトルバスを使う人数は絞るべき。
ほかの3人は体力的に問題がなく、奥只見へのアタックを希望している、というのがもう1つの理由です。ここまですばらしい景色を見てきましたが、もとより絶景で知られる奥只見はどうなっているのか? どうしても見たかった。
5人で記念撮影をしてお別れします。
このときは2人にかなり申し訳ないと思いましたが、結果から言うと引き返して正解。先に進んだら山奥で動けなくなっていた可能性が十分にありました。この先は極めて過酷なライドになったのです。
複雑なのは、しんどかっただけではなく、尋常ではない景色が見られた、ということ。
最高のその上、奇跡と狂気の奥只見
これでもかというほどの紅葉を見せつけられてきましたが、実は前哨戦に過ぎません。この先の景色はそれほど凄まじかった。
14時50分に自分を含む3人は、御池から奥只見川沿いまで下り始めました。左手に冠雪した燧ヶ岳の北側ピークが見えます。
この時点でもかなり壮観な景色。
空が暗くなり、それまでとは雰囲気が変わったことについては誰も何も触れませんでした。
15時19分に金泉橋を渡り、新潟県に突入。その頃には雨が降り出していていました。
ひとまず雨は断続的、弱まることもあり、止むこともありました。
不安しかない天候ですが、景色がよくついつい撮影で止まってしまいます。
15時39分には奥只見湖が姿を現します。朽ちる寸前の赤、滅ぶ間際の緋色に一面が染まった凄絶な美。通常、紅葉といっても黄色や緑などがどうしても混じります。実際、昨年同時期に訪れたイナさんによると、昨年はそういう紅葉だったそうです。にもかかわらず今年は息を合わせたかのように一面同色なのはなぜなのか。これが見られたのはまちがいなく幸運だと思います。
16時6分〜19分にかけて、恋の岐沢を通過しました。こんな風にこれから行く道が見てとれるとテンションがあがってしまうのはなぜなのでしょうか。
紅葉と岸壁が生み出すコントラストからは自然の狂気を感じます。これほどの美しさも誰かに観測されなければ無いのと同じ。それなのに、こんなにアクセスの難しい山奥に出現させてしまう。パーティメンバー2人を生贄に捧げたから、それに応えたのだとしたら底意地が悪すぎる。
これからパスしなければならない急勾配さえも見てとれます。ここまで視界が開けて道が見えるというのは、日本とは思ません。ツール・ド・フランスなどのグランツールの大一番で見られる巨大な峠と似た風格を感じます。自分はこういう道を見ると多少の過酷な思いをしても走破したい、と思ってしまいますが、みなさんはいかがでしょうか。
奥只見デスライド
このあと奥只見は“観覧料”を取り立てにかかってきます。
断続的だった雨は本格的なものになり、夜の帳が落ちても止むことはありませんでした。足を止めている余裕はもうありません。かなりの降雨量で、防水ウェアを着ていても隙間から冷たい雨水が少しずつ浸みてきてしまいます。走っているだけで体温が奪われるようになるのは時間の問題、なにせまだ枝折峠(しおりとうげ)を含む50km以上を走る必要がるのですから。
以降は補給や装備の調整など以外では止まらず、黙々と走り続けました。だらだらとした上りが続いたおかげで浸水しつつも体温はある程度保たれ、言葉を交わす余裕もありました。他の2人も自分と同じ苦しみを味わっていると思うと、気がだいぶ楽になりました(最悪)。
— か (@rebours) November 3, 2021
17時54分、枝折峠の入口・石抱橋にたどり着きます。この橋が奥只見湖に注ぐ北ノ又川に渡されたものだとか、渡った先に作家・開高健の記念碑があるとか、今地図を見直して思い出しました。道路以外のものは本当に何も見えていませんでした。
対戦ありがとうございました。 pic.twitter.com/W8rukxE6cV
— か (@rebours) November 3, 2021
18時34分頃に枝折峠ピークに到達。やっとすべての上りを消化したという感想以外何もありません。雨は止んでいましたが、曇っているようで星も見えずただの真っ暗闇。カメラをわざわざバッグから出す気にもなれずiPhoneのナイトモードでさっと撮るにとどめます。さっさと下ってしまいたかった。
下りに入りますが、ウェットなうえに街灯などは一切なありません。前照灯だけを頼りに、神経を削られながらこなしていきます。楽しみにしていた越後駒ヶ岳や八海山などは見えるわけもなく、ときおり現れるスノーシェッド内にドライの部分が見えただけで嬉しくなる始末。ウェアが濡れている中がんがん下っていくので、走行風で体温がみるみる奪われていきます。言葉を交わす余裕はさすがに消滅。かといってやめるわけにもいきません。甘んじて地獄を受け入れます。
途中で自分の前照灯がつかなくなるトラブルがありました。前を行く2人の灯りがみるみる遠ざかっていき、真っ暗な山奥に1人取り残され、絶望しました。どこが断崖でどこが斜面なのかまるでわからず、乗って下るのはもう無理、徒歩で下るしかないか…と思ったところ、気づいた2人が少し先に待っていてくれて、なんとか事なきを得ました(なお、前照灯は壊れたわけではなく、モバイルバッテリーで給電していて、満充電になったタイミングでいったん電源が切れる仕様でした。その後は問題なく使えましたが、もう1灯持っていくべきでした)。
文明への帰還
身体あっためないとやばいので許可 pic.twitter.com/D0TPM4udCL
— か (@rebours) November 3, 2021
開いている商店などが見当たらない大湯温泉をスルーし、奥只見シルバーライン分岐点にあった廃ガソリンスタンドで休憩。補給したり、身体を拭いたり。大湯温泉からゴールの浦佐駅までは24kmほどあり、どう考えても休憩なしでたどり着けないと考えました。
相当下ったにもかかわらず未だ街灯はなく、前照灯しか明かりはありませんでした。とはいえ、それまで延々と続いた真の闇の中よりは数段マシです。一応、人間の領域にたどり着いてはいるのですから。何を話したかはすでに記憶にありませんが、また言葉が交わせるようになったことでも心理的負担はぐっと下がりました。
セブンイレブン魚沼湯之谷店に駆け込みます。御池ロッジ以来の買い物ができる、営業しているお店です。暖かい飲食物やカイロなどを購入。「生きた…」と感じられるのはデスライドが終わったからです。
ちなみに、カイロはあまり効きませんでした。ウェアが濡れており、走行しなくても体温が奪われていっていて、カイロによるプラスよりマイナスのほうが大きかった印象。晩秋以降の雨は、相当危険です。今回は天気予報では降水確率ゼロの曇り予想でしたが、実際は大雨。山間部ではどうしてもこういうことがあるので、冬に行く際は念には念を入れて全身浸水しない装備のほうがいいですね。
予定通り浦佐駅まで行くかを検討。結果、もうこれ以上走りたくないで意見が一致。もっとも近い駅である小出駅からの輪行に予定を変更します。当初は地方路線の電車間隔の長さを嫌って新幹線駅まで自走することにしていましたが、近場のお店がけっこうやっていたので、温かいものを食べつつ上越線の電車を待つことに。
みんなでラーメンを食べていたら小出駅への到着はぎりぎりに。上越線に滑り込んでなんとか帰京しました。
総括:計画に問題あり、現場の判断は妥当だったのでは
Twitterでこのライドを超絶景を見る代償に2人を生け贄に捧げて残りの3人もHPの8割を消費して死にかけなどと表現しましたが、わりと正鵠を射た表現な気がします。5人でどっか行こうとならなかったら、この奥只見を走れたかはやや怪しく、「5人でこういったプランを立てたから完走組は奇跡的な体験ができた」と言えると思います。
2人のリタイアについては久々のグループライドをノリでハードめに計画して実行したら、予想以上に走力が落ちてる人がいたという問題です。このコースを提案した人に配慮が足りなかったのはまちがいありませんが、受け入れた2人の見積もりが甘かったという面も明確にあると言わざるをえません。まぁ突き詰めると、飲み会の席でお酒をしこたま入れた状態で「奥只見、行こう!」となったのがアウト。「この日にライドしようね」までは決めてもよかったけれど、どこを走るかはシラフで冷静に見積もるべきでした。
現場で下したパーティを2分割する判断は、自分は悪くなかったと思っています。
限界にきていた2人を連れて全員で奥只見側に下るはまず論外。結果的にリタイアした2人は奥只見の強烈な景色を見逃すことになりましたが、もしついてきたらおそらくは枝折峠を越えられなかったし、御池まで上り返して檜枝岐に戻るのも厳しかったはずです。立ち往生することになりますが、今回の場合だと大雨で体温の低下が激しく、相当厳しい状態に陥っていたでしょう。御池から銀山平への上りまでは携帯電話圏外なのも致命的です。
後半戦(御池〜奥只見〜小出)は最悪のコンディションでしたが、進むことを決めた3人には体力的な不安はなく、降雨についても対応可能な装備を揃えていました。暗闇の中のダウンヒルも焦らず、丁寧にクリアできています。全員が体調を崩すことなく翌日も活動できており、もちろんしんどかったですが笑って済ませられる範囲。想定の範囲内で最悪を引いたという感じ。
自分がリタイアする側でも同じ提案をしたでしょう。サイクリストにとって「自力で帰還できるのか?」は常に意識すべきこと。不調を感じたら、進退窮まる前に戻る、以外の選択肢はありません。あの奥只見を見逃したことを知って死ぬほど悔しがることになりますが、「みんなで帰京」がベストとは絶対に思いません。マンガ『弱虫ペダル』ではチームメンバーが主人公に先へ進めと言い残してリタイアするシーンが描かれていますが、自分も行ける人には先に行って欲しい。自分の不調等のために目的を犠牲にする人がでるほうが嫌ですね。
自分が挑んだ中でも最悪かつ最高のライドとなりました。今後これを越える経験ができるかは怪しくも思えるほどですが…まだまだあちこち走り回ることでしょう。
(↓リベンジして新潟側から奥只見を走破した際の記事)
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